腐ることなく、元の姿を保ったままのホルマリン漬けは、不気味でちょっと不思議な世界。
日本でも、有名人など人間をホルマリン漬けしたものや臓器のホルマリンが展示されている場所もあります。
ここから先は、興味本位で覗くと怖い思いをしたり、人によってはグロテスクと感じる方もいるでしょう。
画像とともに、不気味なホルマリン漬けの世界をご紹介します。
人間のホルマリン漬けがあるのは本当なの?
ホルマリン漬けとは、ホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリンに生体やその組織片を漬けたもののこと。
生物標本として、病院や学校の理科室、博物館などで見たことがある人も多いでしょう。
不気味さと神秘的な美しさがあり、独特の雰囲気を出しています。
ホルマリン漬けは腐ったり形が崩れることなく、生きていた状態のまま保存されるので、不気味さが際立ちますよね。
ホルマリン漬けの多くは生体標本であるため、魚や両生類など小動物であることが多いのですが、人間をホルマリン漬けにしたものも存在しています。
【画像あり】バンコクの博物館に展示している
タイのバンコクにあるシリラート博物館。
シリラート大学の一角にあるこの博物館の通称は、死体博物館。
これほど好き嫌いの分かれる博物館もないでしょう。
ショッキングな通称の理由は、人間のホルマリン漬けを多数展示しているからです。
学術用のサンプルとして奇形児や死体、臓器などが飾られています。
タイの医学生や医学関係者のほか、観光客も多数訪れているそうですよ。
怖いもの見たさに訪れる人が多いんですね!
ちなみに、ホルムアルデヒドは刺激臭が強いため、展示されてるエリアは独特の匂いが漂います。
実際に展示されているホルマリン漬けの画像がこちら。
これはシャム双生児(結合双生児)のホルマリン漬けです。
一つの内臓を共有している様子がわかります。
おもちゃやお金がお供えしてあり、ちょっと切なくなります。
こちらは水頭症の子供の標本です。
水頭症は、文字通り頭に水(正確には脳脊髄液)がたまる病気です。
画像でも頭部肥大している様子がよくわかります。
こちらは拳銃で頭を撃ちぬかれた頭部をホルマリン漬けにしたものです。
断面がわかるように切断されており、弾丸がのめり込んでいる様子が見えます。
頭の中ってこんなふうになっているのか!とびっくりするほどきれいに保存されていますね。
ホルマリン漬けは日本でも見ることができる
バンコクの博物館をご紹介しましたが、日本国内でも、ホルマリン漬けを見ることができます。
岡山県津島市にあるつやま自然のふしぎ館は、世界各地の動物のはく製を中心とした自然史の総合博物館です。
動物のはく製のほか、昆虫、貝類、化石、鉱石類、人体の実物標本や動物の骨格標本を展示しており、展示総数はなんと約20,000点!
ボリューム満点で見ごたえのある博物館です。
この博物館には、創設者の森本慶三氏の遺言により、本人の臓器がホルマリン漬けの状態で展示されています。
キリスト教徒であった森本氏は、人類の発展と平和を願い、自分の体が役に立てばと法の許す範囲で標本として展示して欲しいと願ったそうですよ。
有名人のホルマリン漬けがある
生体標本としただけでなく、功績を称える目的で保存されている有名人もいます。
全体ではなく、骨格や体の一部の残し展示されている場合も。
世界中で保存、展示されている有名人をご紹介します。
ガリレオの指
近代科学の父と呼ばれるガリレオ・ガリレイの指はフィレンツェ科学史博物館で展示されています。
ガリレオは1642年に亡くなっているため、約400年前のものです。
ガリレオの指は、埋葬される際に崇拝者らにより切り取られていたんだとか。
功績のあるガリレオの体の一部をもらうことで、力を得ようと考えた人がいたようですね。
ホセ・リサールの脊椎
フィリピン独立運動の英雄ホセ・リサール。
軍法会議にかけられ、35歳の若さで銃殺刑となりました。
聖骨箱に収められた脊椎はサンチアゴにあるリサール博物館に保存されています。
ダン・シッケル少将の足
南北戦争のゲティスバーグの戦いで砲弾を受けたダン・シッケル少将の足の骨は、アメリカ国立健康医学博物館で展示されています。
治療のため切断された骨は軍医総監によって砲弾と一緒にディスプレイ化されているんだとか。
割れた骨と、並んでいる砲弾がなんだか生々しいです。
アインシュタインの脳
相対性理論などで知られるアルベルト・アインシュタイン。
常人の理解を超える天才の脳は、死後に家族の許可なく体から取り出され、40年間研究に使われました。
アインシュタインの検死を行った解剖学者が脳だけを勝手に自宅に持ち帰ってしまったんだとか。
求めに応じて脳をカットし知人に配布していたと言うから驚きです。
アインシュタインの脳の欠片は46個。
現在はフィラデルフィアのムッター博物館に収蔵されています。
研究の結果、実際にアインシュタイン脳は特別であったこともわかっています。
頭頂葉下部の下頭頂小葉という領野が通常より大きく拡大し、神経細胞に対するグリア細胞の比率が通常よりかなり高くなっていたんだとか。
ホルマリン漬けにし保存できたからこそ、判明した事実ですね。
ポール・ブローカの脳
フランスの医師であり解剖学者でもあるピエール・ポール・ブローカ。
前頭葉の言語を司る領域を発見した人物です。
発見された脳の部分は彼の名前にちなんでブローカ野と名付けられました。
パリの人類博物館にポール・ブローカの脳が保管されています。
生きたままホルマリン漬けするとどうなる?
ホルマリン漬けは、死んだ生物を保存するためのもの。
もし、生きたまま人間をホルマリン漬けにするとどうなってしまうのでしょうか。
生きてる人間は死んでしまう
ホルマリンはホルムアルデヒドの水溶液です。
ホルムアルデヒドはシックハウス症候群などで知られる有害物質です。
接着剤や合成樹脂を原料としてつくられた住宅建材により、シックハウス症候群が多発し、注目を浴びました。
霧散したものは呼吸器、目、喉などに炎症を引き起こし、水溶液が皮膚に付着すると炎症を起こします。
37%以上の水溶液をホルマリンと呼び、ホルムアルデヒドやホルムアルデヒド水溶液は、毒物及び劇物取締法により医薬用外劇物に指定されています。
濃度の濃いホルマリンを浴びてしまったら、全身や体内に炎症を起こし心不全に至ることも。
生きたままホルマリン漬けになるようなことは、あってはいけません。
毒性や発がん性が強く、取り扱いには厳重な注意が必要です。
ホルマリン漬けをするのはなぜ?
ここまでホルマリン漬けの例を紹介してきましたが、なぜホルマリン漬けをするのでしょうか。
劇物を用いた特殊なな保存方法は、何のために行われるのでしょうか。
この疑問にはホルマリンは防腐効果が高いため、研究に使用するためという2つの理由が挙げられます。
ホルマリン漬けする理由①防腐効果が高いため
ホルマリン漬けにする理由は、保存しておくためです。
生物はみな死後に腐敗してしまいますが、ホルマリン漬けにしておけば、そのままの姿を保つことができます。
有機物である生物は、死後微生物の力により分解され、腐敗します。
ホルマリンの素であるホルムアルデヒドは防腐効果が高く、腐敗などの死後変化を起こしません。
ホルマリンに含まれるホルムアルデヒドが組織の細胞内外に浸透すると、架橋反応と呼ばれる化学反応を起こします。
この化学反応は組織を固定することで、それ以上の変化が起こらなくなるのです。
ホルマリン漬けは、厳密にはホルマリン固定という保存方法のことなのです。
ホルマリン漬けする理由②研究のため
ホルマリン漬けした生物標本はかなり長期間の保存ができます。
病理学の父と呼ばれる19世紀の病理学者ルドルフ・フィルヒョウはたくさんの生体標本としてホルマリン漬けを作ってきました。
その中には100年以上前の肺のホルマリン漬けがあります。
1912年に麻疹に感染し、気管支肺炎で亡くなった2歳の女の子の肺です。
2020年、ロベルト・コッホ研究所のカルヴィニャック・スペンサー博士らは、この肺のホルマリン漬けから麻疹ウイルスのゲノムを取り出すことに成功しています。
ゲノム解析を行うことで、病気の特徴を知り、ワクチンや薬などの開発に役立てることができるのです。
生物体の肉眼的な保持のほか、標本の制作やDNAを抽出したい場合にもホルマリン漬けという方法が選択されるんですね。
ホルマリン漬けのバイトがあるって本当?
こんな都市伝説を聞いたことはありませんか。
「死体洗いのアルバイト」というものがあり、「大学の医学部では解剖実習用の遺体をホルマリンのプールに漬けていて、その遺体を洗ったり、浮いてくると棒で突いて沈める仕事という内容です。
実在するバイトなのでしょうか。
ホルマリン漬けを行うバイトは実際に存在しない
日本の都市伝説に「ホルマリン漬けのプールで死体洗いをするバイトがある」というものがあります。
元ネタは大江健三郎の小説「死者の奢り」で、大学病院で解剖用の死体を運ぶバイトをしている主人公ではないかと言われています。
死体洗いのバイトは特殊な労働であり、常人はやりたくないような仕事内容であるため高時給である、とも言われています。
これは都市伝説であり、全くのデマです。
実際にそのようなバイトは存在しません。
ホルムアルデヒド自体が有毒性の高い物質であり、揮発性も高いため生きている人間が長時間ホルマリンにさらされるのはとても危険です。
怖すぎる!日本・海外のホルマリン漬け事件を紹介
ホルマリン漬けは研究用に役立っている反面、身の毛もよだつような恐ろしい事件でも登場します。
日本と海外における、ホルマリン漬けに関する事件をそれぞれ紹介します。
【日本】少年誘拐ホルマリン漬け事件
日本で起こったのは、ホルマリン漬けの特徴である「今ある姿を永久に残したい」という思いから起こってしまった凄惨な事件。
少年誘拐ホルマリン漬け事件は1957年に起きた少年愛者によるバラバラ殺人事件です。
犯人の男は少年をわいせつ目的で誘拐し、抵抗されたため殺害しました。
殺害後は切断し、大型の金魚鉢など4つの容器に入れてホルマリン漬けにしました。
被害者はプロレスラーの清見川梅之の長男(12歳)で、犯人は囲碁棋士林祐太朗の長男(26歳)でともに著名人の家族だったため、事件内容も含め大きく報道されています。
被害者の少年は犯人にとって「理想の少年」として映ったようで、残されたノートには「金魚鉢に入ったあの子は、見ても見ても飽きるということがない」と書かれていたんだとか。
ホルマリン漬けにして保存して愛でていたなんて恐ろしすぎますね。
【海外】ポルトガルの連続殺人犯の生首
ポルトガル・リスボン大学医学部の解剖学教室には、1841年に死んだ連続殺人犯の生首がホルマリン漬けにされて置いてあります。
目が開いており、かなり生々しい様子です。
この生首は連続殺人犯であるディオゴ・アルヴェスのもの。
1700年代にドイツの医師フランツ・ヨーゼフ・ガルが発展させた骨相学の研究のためにホルマリン漬けにされました。
骨相学では、犯罪傾向も含めた個人の特質は、頭蓋骨でわかるとされ、悪名高い連続殺人犯であるディオゴの頭部は絶好の研究対象でした。
しかし骨相学は現在ではニセ科学とされ、ディオゴは犯罪者としてただ生首をされされているだけです。
【画像あり】人間のホルマリン漬けがあるって本当!?ホルマリン漬けのバイトや事件について徹底解明!まとめ
画像とともにホルマリン漬け人間を紹介しましたがいかがでしたか。
ホルマリンは劇薬で、腐敗を防ぐ働きがあるため、生きていたそのままの姿で保存することができます。
バンコクの博物館や日本の博物館で、ホルマリン漬け人間が見られる他、世界中で有名人のホルマリン漬けの体の一部が展示されています。
不気味ではありますが、ホルマリン漬けは研究のために重要なものであり、ゲノム解析などに役立つこともわかりました。
「怖いもの見たさ」でホルマリン漬けを見るだけでなく、生命の神秘や人類の英知に思いをはせてみてはいかがでしょうか。